正面を向いたラブの顔と色が変わっていく星印の連続でできたライン                    





リタイアへの思い






 乗り物等で、偶然隣り合わせた人から、「あなたのワンちゃんは何歳?」と聞かれて、「10歳です」と答えると、「そう。そろそろリタイアね。」等と言われて、その場は作り笑いですませるけれど、内心穏やかでないと言う、アイメイト使用者からの声をよく聞きます。私も困ってしまう事があります。最近のマスコミでの、盲導犬とそのリタイアについての報道の影響で、この種の質問が増えたように感じます。そこで、私自身のアイメイトと、そのリタイアについて考えた事を書いて見る事にしました。


 もし、あなたが、みずしらずの人から、「あなたは何歳ですか?」と聞かれて、「58歳です」と言うと、「そう。そろそろ定年ですね。定年後の計画は立てていますか?」等と聞かれたら、どうでしょうか?


 あなたにとって、リタイアとはどのような物でしょうか。以前は、リタイアと言うと、その後は余生をおくると言うように、人生最後へと重なっていましたが、今は医療の進歩等で、寿命が延びて、今までできなかった趣味を楽しむ等、生活をエンジョイすると言うような考えに変わって来たようで、職場で見かける仕事に疲れた人より、輝いている年長者を多く見かけるようになりました。


 アイメイトにとって、リタイアとはどのような事でしょうか。医療の進歩等で、寿命が延びていて、仕事を続ける体力はないけれど、ペットとして、たくさんの人達と幸せを分け合いながら暮らす事が十分できるようになって来たように感じます。


 人間にとってのリタイアの考え方が様々なように、アイメイトについてのリタイアの考え方も、それぞれの使用者や、その関係者等で差があります。私自身の体験をふまえて、アイメイトのリタイアとはどういう事か、考えをまとめて見ました。あなたはいかがでしょうか。


 以下はよく聞く話です。
 「この前、Aさんのワンちゃん、亡くなったんですってね!ご自分で最後までめんどうを見たそうだけど、えらいわよね!BさんもCさんも、リタイアさせたそうだけど、Bさんはご両親がめんどうを見るそうだし、Cさんは、お友達にめんどうを見てもらうそうだと言うから、あの子達も、前から知っている人の所だし、幸せよね。Dさんは、リタイアしたワンちゃんを、ボランティアさんに預けたそうだけど、まめに連絡を取り合っているようだから、安心だけど、Eさんは、ボランティアさんに預けっぱなしで、ろくに連絡していないそうなんですって。心配じゃないのかしら?さんざんお世話になったワンちゃんを、ボランティアさんに預けたりして、次のワンちゃんと生活するなんて、私には考えられないわ!まるで、道具のように使うだけ使って、感謝の気持ちが本当にあるのかしら?


 長年にわたり、密度の濃い関係を保って来た二人にとって、別れは避けて通れない事を、私を含め、アイメイト使用者は身にしみて感じています。先にあげた例のように、一見心のこもった?ご意見に接する時、私は当惑してしまうのです。


 盲導犬のリタイアについては、各協会によって差があるようですが、アイメイト協会では、リタイアの時期を定めていません。それは、それぞれのアイメイトの状況、使用者の生活や行動範囲が違うからです。


 年が重なると、人もそうですが、老化現象が出てきます。獣医さんの健康チェックで見つかる物もありますし、目や足の衰え等、一緒に生活していると、歳相応に感じられる物もあります。だからこそ、私を含めて、多くの使用者は、普段から、生活を支えてくれているアイメイトに、惜しみない愛情を注ぎ、将来についても幸せを願っているのです。そして、それぞれの状況を考えて、二人にとって一番幸せな生活方法を模索するのだと思います。


 以下に私の知っている方法を記して見ます。


1,最後まで看取る:
これは、一番美談に繋がりやすい物ですね。ただし、これは老人介護と一緒ですから、本人が家にいる事が多く、家族等、複数の方の協力が得られて、はじめて実現するのではないでしょうか。その間、使用者は、白杖歩行で生活しますので、行動制限と危険がともなうと思われます。通勤していたり、行動範囲が広い場合、選びにくい方法と思います。


2,知り合いに看取っていただく:
これは、リタイアする子にとっても、預ける人にとっても、安心と思われがちな方法ですが、ともすると、前の使用者が、私はこうしていたと、食事や健康面等で、知り合いに飼育法を過度に指示したり、知り合いが、その子の体調が悪い時等、おりにふれて判断を仰ぐ状態になり、前の使用者と知り合い、そして、リタイアした子、3者の関係が不安定になりやすく、お互い不幸になる心配が出てきますので、その辺の事前打ち合わせが重要と感じます。


3,リタイア奉仕者(ボランティアさん)に看取っていただく:
大切なパートナーを受け入れ、充実したフリータイムをエンジョイしている子を支え、最後まで見てくださる、リタイア奉仕者の方々に、心から感謝しています。預かってくださった皆様は、最後まで、我が子のように、愛情深く接してくださいます。前の使用者とリタイア奉仕者との関係は、個々のケースによって違いますが、その家の一員としてくらしているのでしたら、そっとしておくのも、愛情表現の一つではないでしょうか。


 以上のように記して来ましたが、一番大切な事について考えて見ましょう。リタイアの問題は、個々の状況によって、結論は一つではありません。私が切なくなるのは、先に紹介したような、心のこもった?話をされる方の殆どが、自分自身の生活に置き換えて考えていただけない事なのです。もし、あなたが今の生活状況でアイメイトと生活し、その子のリタイアを考えなければならないとしたら、どんな方法を考えますか?大切なパートナーの将来を決める時、愛情が深い分だけ悩み抜いて結論を出します。その結論を尊重していただきたいのです。


私自身、視覚に障害があり、安全な歩行を保つために、アイメイトを日常のパートナーとして、一緒に生活しています。その事を除けば、あなたと同じように、仕事をして、日常の雑事に追われながら、生活しています。そして、アイメイトと共に、人生をエンジョイしています。このような生活は、アイメイトの支えがあってこそ実現できる事で、深く感謝しています。


 いろいろな方と接していると、この方は、見えない人は、自分と別の世界に住んでいる、特別な人なんだと思っているのではないかと感じる時があります。確かに、見えない事で、工夫が必要な事や、できない事、援助していただく事は多いですが、私自身は、見えない事、そしてその助けとしてアイメイトと生活している事以外は、あなたと同じだと思っています。あなたの日常を振り返って見て、形は違いますが、だれかに助けられて生活している事に気づかされる事はありませんか?


 アイメイトのリタイアは、アイメイトの問題だけでなく、使用者をも含めた大切な問題だと言う事を忘れないでいただきたいのです。


 リタイアするアイメイト側に立って考えて見ましょう。リタイア奉仕者や知り合いに預かっていただく場合、人間もそうですが、年が重なると、環境順応が難しくなりますし、先方の皆様にも、楽しい思い出を残してあげたいと思うのは、今まで一緒に苦楽を共にしたアイメイト使用者にとって、ごく自然な事と思います。それで、余力のあるうちに、リタイアさせる事もあるのです。悲しいかな、彼らは、使用者と一緒にいる間は、それまで築き上げてきた、主従関係を求め、仕事を望むようです。


 アイメイトは、人生(犬生)を五つの家で過ごすと言われています。最初は、生まれた繁殖奉仕者の家、次に、飼育奉仕者の家、そして、アイメイト協会で過ごしたあとに、使用者の所で生活し、そして、リタイア先の家で過ごします。使用者やその関係者は、今の状態より幸せになれるとは思えないとか、私がいなければだめな子だと、つい思いがちですが、今まで4度も環境が変わっても順応してきたラブラドールの特性で、使用者の手を離れて1週間もすると、新しい環境に慣れて、今まで以上に元気になったと言う話を、多数聞きます。犬生をエンジョイし、家族と幸せを分け合っている話に接すると、ほっと安堵します。


 最近、老犬ホームがクローズアップされています。人は状況を判断して、自ら老人ホームに入所するそうですが、犬はどうでしょうか?今まで愛情をひとりじめしてきた子が、集団でやって行けるでしょうか?でも、それを使用者が望んだならば、尊重していただきたいです。


 最後に、悩めるアイメイト使用者の皆さん、そして、リタイア時期を迎えて、人生設計を考えている皆様へ:
この一文が、冷静に判断する材料になれば、幸いです。






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