私にとってのパートナー






 「あなたにとって、アイメイトはどんな存在ですか」と聞かれる事があります。通常、私は自分自身のアイメイトを、パートナーと表現します。それは、他人に名前を覚えられて、別の機会に呼ばれる事をおそれるからだけでなく、私にとってアイメイトは、文字通りのパートナーだからです。


 彼女は、私と四六時中一緒に生活していますから、私のすべてを知っています。犬語が人間に分からなくて、本当に良かったと安堵する事もしばしばです。私にとって、彼女は、恋人でも・親でも・子でも・友達でもなく、それ以上に密度の濃い、かけがえのない、いわば、同士的な存在です。こんな私達の様子に接して、やきもちをやく方々も多いです。


 生まれつき目が悪く、犬が苦手だった私は、家の近所の治安が悪い事と、家族の手が足りていたので、一人歩きの経験をあまりせずに育ちました。いろいろな事をしてはいましたが、家に帰る時は必ず最寄りの駅まで迎えに来てもらっていたので、家族の都合を最優先しなければなりませんでした。デートもままならない事となり、失恋を景気に、将来をも含めて自分自身を見直して見ました。いつもだれかと一緒に行動している事で、私自身に自信が持てていない事に気づきました。一人で行動できる自由を手に入れ、魅力的な女性になりたくて、アイメイトと歩く事にしました。


 アイメイトと出会ってから、行動範囲が広がり、コンサートやライブ・演劇・映画・買い物・旅行等、パートナーと二人で出かける事が増えました。他人のスケジュールを気にせず、行動できる快適さは、格別です。


 いろいろな所に出かけられるようになった事も喜ばしい事ですが、私にとって、一番感謝すべき事は、職場への通勤に、家族の手を煩わせずにすむようになった事です。アイメイトと出会っていなかったら、勤め続けられなかったでしょう。職場での仕事の自信にも繋がっています。忙しい家族に代わって、用事がたせた時等嬉しいです。私が体調を崩した時に、気軽に病院に通院できる事も、とても嬉しいです。見えない私の生活は、パートナーの助けなくしては考えられません。そして、パートナーと一緒に、あなたと同じような日常生活を、ごく自然にしています。


 外出中、アイメイトの仕事に関して、私達は真剣勝負しています。彼女は、仕事を評価される事を喜びます。彼女にはプライドがあります。ですから、こちらがいい加減に接しては、二人の関係がうまく行かなくなります。


 犬と言うのは、おもしろい動物で、こちらの接し方一つで、赤ちゃんのようにふるまったり、大人のようにふるまったりするようですね。人間は、愛玩犬には赤ちゃんのように接する事が多いので、赤ちゃんのようにふるまいます。アイメイトや警察犬、その他の作業犬の仕事中には、作業のパートナーとして彼らに接するので、彼らは、それに答えるべく、作業の担い手として、大人のふるまいをして、プライドを満足させているようです。犬にとっては、どちらも本当の姿なのでしょうが、愛玩犬の飼い主の方が多いので、この作業犬としての一面は、見落とされがちです。


 余談ですが、出先で、子どもに、「ほら、あのワンちゃんはおとなしいのよ。あなたより良い子よ。」と言って、子どもに説明している保護者の方に遭遇する事があります。子どものプライドが傷つかないか、ちょっと心配になります。


 パートナーが、私の指示で、ドアや階段、椅子の空席や改札の入り口等を探している時に、「犬にそんな事、できるはずがない!」と思い込んで、いきなり、無言で私の腕や体を捕まえて、連れて行こうとする方が、時々いらっしゃいます。機会のような素早さや正確さで、すぐにはできずに、見ていてはらはらされるかもしれません。困っている時は、必ずこちらからお聞きするようにしていますが、ご心配の際は、遠慮なく、事情を聞いていただけると、ありがたいです。特に、卒業したてのペアの場合、お互いの呼吸が合わなかったり、仕事に慣れていなかったりで、どきどきさせてしまう事が多いです。そんな時、二人で経験を積んで行きながら、お互いが成長して行きます。卒業して、基礎編が終わったばかりですから、応用編を実地で覚えて行くのです。若葉マークのペアを見かけたら、そっと見ていていただけると、ありがたいです。


 ところで、私とパートナーの日常は、どんなでしょうか?平日は、家から1時間ちょっとの職場に、バスと地下鉄・JRを乗り継いで通勤し、日中、私が電話交換の仕事をしている間、彼女は机の下で、私の足を枕に寝ています。あまり熟睡していると、寝言で皆さんを驚かせたり、寝姿にうらやましがられたりします。社内での移動は、彼女といつでも一緒です。最初のパートナーと歩き始めた頃は、諸事情で、私が勤務中、彼女は別の場所で、私の勤務が終わるまで待っていました。彼女の体調が崩れたのに気づくのが遅れて、辛い思いをさせた事もありましたし、心配でした。今の方が職場の皆さんが、彼女を受け入れてくださるようですし、私も安心して仕事ができます。社内の移動が一人でできるので、サポートの必要が少なく、見ていても安心のようです。職場は通常犬がいない場所ですので、異物に関しての違和感が少ないように、手入れや躾等、気配りしています。


 そして、勤務時間が終わると、彼女の出番です!会社帰りに、買い物をしたり、時にはライブや演劇に行ったりで、帰宅時間は決まっていません。ウィークエンドは、旅行や散歩、映画鑑賞等に出かけているか寝ているかの私につきあってくれます。


 今の彼女は私にとっては5頭目です。最初の彼女は一人歩きの経験が少なかった私が社会に慣れるのを助けてくれ、2頭目の彼女はアイメイトのおくの深さと本当の意味でのパートナーとの関係を考えさせてくれ、3頭目の彼女は相手をまるごと受けとめてからこちらの指示を伝えると言う事を教えてくれ、4頭目はおっとりしていて内気な長女タイプのじっくり考えて行動する素地を生かし切れたかが問われました。そして明るく好奇心のある今の彼女と育ち会い真っ最中です。それぞれ個性の違うパートナーに育てられたような気がします。


 これから何年アイメイトと歩けるでしょうか?できるだけ長い年月アイメイトと歩き続けて、いろいろな経験をして、人生をエンジョイしたいです。






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